~いざ、美しき軽井沢の森へ~

母と子

母と子

野生動物の世界での母親の存在は絶大です。
先日、ブログ「軽井沢の森を守るために(ピッキオの活動報告)」で、何らかのアクシデントが起こって母グマとはぐれてしまったプリンセスという子グマの死を取り上げました。
生後間もない子グマをプリンスエリアで保護し、発信器をつけて森に放したところ、「クマ(雄グマ)の子殺し」に遭って死んでしまったという話ですが、実は、今年の5月にもこれと同じようなことが起こりました。

場所は同じプリンスの施設内。
でも、今回は72ゴルフの中でした。
夕方、造園業者のひとたちがコースの整備をしていたところに、子グマが、まるで何かから逃れるかのように必死で走り寄ってきたというのです。
見ると、まだ母乳を飲んでいると思しき小さな赤ちゃんグマ。
さあ大変です。
万が一近くに母グマがいたら、と、みんな恐れおののいて辺りを見回したそうです。
でも、その気配はまるでありません。
今度は、これは困った、と、早速ピッキオにSOSを送りました。
依頼を受けてやってきたピッキオは、すぐに、母グマが探しにやってくる可能性もあるだろう、と判断して、保護した場所にケージを置き、その中に子グマを入れてしばらく様子をみることにしたそうです。
でも、やはり母グマに何かがあったのでしょう。とうとう姿を見せませんでした。
前回の子グマは雌だったのでプリンセスという名前を付けました。
が、今回は雄だったために、ピッキオはその子グマにプリンスと命名し、いつものように発信器をつけて森に放してやりました。
でも、今回も残念なことに、早くも4日目には発信器の位置が動かなくなってしまったそうです。
死因は餓死でした。
まだ自力で木に登ることもできなければ、餌をとることも知らなかった赤ちゃんです。
生き延びることは難しかったとはいえ、何とも切ない結果になってしまいました。

この2つの実例からもわかるように、
野生動物の世界では、母親がいないとほとんどの場合、子どもは生きてゆけません。
生まれてから自立するまでの短い間に、子どもは母親から生きてゆく術(すべ)をすべて教わります。
野鳥は、父親と母親が役割分担をしてヒナを育ててゆくようですが、動物の世界では、父親も子育てを手伝うオオカミを除いて、ライオンやトラやサルやシカなど、ほとんどといっていいほど、母親だけが子育てを行います。
軽井沢のツキノワグマやニホンリスも例外ではありません。
クマは平均して1年半ほど、リスは4ヶ月ほどの間に、母親から何もかも学んでから親離れをするのです。
生まれた直後から本能的に木の上り下りができるというものではありません。
しばらくの間、母親が手で支えたり口に銜えたりしながら補佐することで徐々に教え込んでゆくのです。
餌だってそうです。
何をどうやって食べたらいいのか、どこに何があるのか、などなど、すべて母親から教わるのです。

もうひとつ、軽井沢に移り住むようになって、毎日、ずーっとリスを眺めていて、面白いことに気づきました。
子リスの嗜好や行動パターンはその母リスとまったく同じだ、ということです。
リスには「貯食」という習性があります。
人間でいう保存食みたいなものでしょうか。いつ食べ物がなくなっても困らないように、クルミやハシバミなどを土の中や樹洞や木の枝股などに埋めたり突っ込んだりする行為です。
見ていると、リスには、まず何を差し置いてもこの貯食を優先させる子と、まずは自分の腹ごしらえをして、ある程度満腹になってから貯食に走る子がいます。
そして、母リスが貯食優先タイプだと、その子どもも同じ、貯食優先タイプになります。
母リスが、腹ごしらえ優先タイプだと、その子どもも同じ、腹ごしらえ優先タイプです。
嗜好もしかり。
母リスがクルミ大好きならば、その子どももクルミ大好きになります。
最初のうちは、ハシバミなどに目もくれません。
反対に、母リスがハシバミ大好きならば、その子どもも、まずはハシバミからかじりはじめます。
そうやって何から何まで母親から学びとって、子リスは独り立ちしてゆくのです。
母親のすることはすべて受け入れて……。
子リスにとって、母親は絶対的存在なのです。
母親も、子リスが独り立ちして生活できるようになるまで、死に物狂いでその子のことを守ります。
いつだったか、カラスを目の前に、子リスの肩をガシッと抱きかかえて猛然と立ち向かおうとしている母リスの写真を見たことがありますが、母リスは子どもを守るためならば、カラスだけでなく、ヘビにだって向かってゆくといいます。
クマだって、「雄グマの子殺し」に対して母グマは命がけで向かってゆくそうです。
種の保存のためだけとは思えないほど、そこには母と子の強い絆を感じます。
ひょっとして、いまどきの人間の親子以上に強い絆かもしれません。

野生の動物たちは、群れで生活する種族以外は、親離れをしたら天涯孤独。
すべて何もかも自分の力で生きてゆかねばなりません。
甘える相手はどこにもいません。助けてくれるものもどこにもいません。
同じ種族でさえライバルになります。
そのために、母親はそれこそ必死になって子育てをするのです。
ひとりになっても強く逞しく生きてゆくんですよ、
あなたもいずれはちゃんと立派な親になるんですよ、と、
思っているのかどうかはわかりませんが……。
そしてすべてを教えこんだときに別離がやってきます。
どんな気持ちで母リスは子リスを見送るのだろう。
子リスはどんな気持ちで母リスの元を去るのだろう。
そんなことを思うと同時に、
自然界の厳しい理に逆らうことなく、
文句ひとついうこともなく、
まっすぐに生きている彼らから、人間は学ぶことがたくさんあるのではないか、などと考える今日この頃です。

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