~いざ、美しき軽井沢の森へ~

白い森

白い森

森に雪が舞う季節となりました
最初は、ひとひら、ひとひらと
それはまるで、さくらの花びらが舞うがごとくに
薄墨色の雲から舞い落ちてきます
だれにも気づかれないように
静かに
ひそやかに
しかし次第に勢いを増しながら
それはまるで、絵筆を重ねるがごとくに
森の底を白く染めてゆきます
もはやだれの目もごまかすことなどできずに
もはや止まることなど知らぬといわんばかりに
刻一刻と雪は深まり
あるとき
森の何もかもが巻きこまれてゆく一瞬がやってきます
裸木に眠る冬芽の寝息も
野鳥の囀る声さえも
雪の降る音にかき消され
しいーんと
森には雪の降る音だけが響きわたります
そうして森は
雪の魔法のなすがままに
いつの間にか白く煙り
そこには幻想の世界がぽっかりと口を開けるのです
雪は白い精霊たちの化身
彼らは
蒼氷の女王と戦うために
やがて風を味方につけます
そしてその風に煽られながら
森の中を舞い狂って
樹木に白い鎧を着せてゆきます
それは白い森の哨兵たち
彼らは
天に向かって伸ばした無数の腕を
それぞれに絡め合いながら
森を白銀の砦と化してゆきます
蒼氷の世界でいのちをまもるために
そう、それは
雪の温もりで
いのちを包みこむために築かれた砦なのです
すべてのいのちは
この砦で
厳寒に抗うべく
雪の魔法で編まれた白いヴェールを纏って
そのいのちをつないでゆくのです
ほら、あそこでは
宿根草たちがやっと安心して眠りにつきました
ほら、あそこでは
野ウサギがねぐらにしようと穴を掘っています
はらりはらり
今日もまた雪が舞いはじめました
こうやって
この魔法は解けることなく
これからの長い冬の間中ずっと
森の小さないのちたちをまもってゆくのです
春という名の陽射しが森の底に届くまで……

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