~いざ、美しき軽井沢の森へ~

野鳥たちの聖戦

野鳥たちの聖戦

軽井沢の冬は厳寒。
氷点下十数度まで下がることもめずらしくありません。
そんな寒さですから、一度雪が積もると、
それは根雪となって、
ことに我が森の底は、
春の暖かい陽射しが届くようになるまで、
真っ白いままになります。

そんな厳しい冬の間だけ、
いのちをつなぐお手伝いをしようと、
虫が死に絶え、木の実がすべて落ちてしまった頃から、
我が家は数種類のバードフィーダーを設置します。
小粒のヒマワリの種が入ったもの。
大粒のヒマワリの種が入ったもの。
手作りのバードケーキを入れたもの。
そして、無塩無油の生のアーモンドと牛脂も、
少しだけ置いてあげます。
どうしてそんなに……、と思われるかもしれませんが、
一冬、ここに訪れてくる野鳥たちをずーっと観察してみて、
種類によって好みが違うことに気づいたからです。

アカゲラはヒマワリの種には見向きもしません。
ヤマガラやシジュウカラは、
ヒマワリの種も食べることは食べますが、
それよりも硬いアーモンドが大好きです。
シジュウカラなどは、牛脂も大好物。
カワラヒワやシメは、やはり種子が好きなようで、
まずはヒマワリの種をつつきます。

また、複数のフィーダーを用意しているのには、
弱いものが食い逸れのないようにするため、
という理由もあります。
野鳥の間には、
体の大小で決まる力関係が厳然と存在しています。
それはまた同時に、
大きい子と小さい子の行動の特性を生みだします。
つまり、大きい子は器用さに欠けるため、
フィーダーの形状によっては、近づけないものもあるということです。
そういった習性や嗜好などを考えあわせて、
我が家では試しにいろいろと置いているわけです。

さてその力関係ですが、
これは、体躯の大きさだけでなく、
野鳥の次のような種類によっても大きく異なります。

野鳥は、大きく、
留鳥と渡り鳥と漂鳥の3種類に分けられます。
(本当はもっと細かく分類されているようですが……。)
留鳥とは、通年そこに生息している地元の鳥のことで、
我が家ではジモバーと呼んでいます。
さしずめ、この森では、
アカゲラ、ヤマガラ、シジュウカラ、ゴジュウカラ、コガラ、
キジバトなどが、代表的なジモバーたちです。
渡り鳥は、
夏に飛来する夏鳥と、
冬に飛来する冬鳥がいますが、
この森にやってくる冬鳥には、
シメ、アトリ、ミヤマホオジロなどがいます。
もうひとつの漂鳥というのは、
冬になるとシベリアから渡ってくる渡り鳥とは違って、
同じ軽井沢の中の平野部から山地へ、と、
季節に応じて狭い範囲で移動する鳥のことです。
冬になるとこの森へ移動してくる漂鳥には、
カワラヒワやイカル、ヒヨドリなどがいます。

雪が舞いはじめる頃までは、
この森はジモバーたちの天国です。
孤高の鳥であるアカゲラは別格として、
ヤマガラもシジュウカラもゴジュウカラも、みんな伸び伸びと、
お行儀よく順番を待ちながら、
フィーダーの中の餌をつつきます。
それが、雪が舞いはじめて、
カワラヒワがやってくるようになると、
様子が一変します。
カワラヒワは群れをなしてやってくるので、
彼らが飛来するようになると、ジモバーたちの居場所がなくなるのです。
それでなくても、気性の激しいカワラヒワたち。
ちょっとでも近寄ろうものならば、
すごい形相で追い払われてしまいます。
ジモバーたちは、ちょっと離れた樹木の枝に止まって、
じーっとフィーダーが空くのを待つしかありません。
そこでハンギング型のフィーダーや、
アーモンドや牛脂の出番となります。

さあ、そのカワラヒワよりも激しいのはシメです。
このシメも、単独で飛来する間はお行儀がよいのですが、
冬が深まり群れでやってくるようになると、
壮絶な食物争奪戦が繰り広げられるようになります。
そしてその争奪戦は、
春になり、シベリアへと渡ってゆく時期が近づくにつれて
さらに熾烈さを増します。
それは、長い過酷な渡りに備えて、
体脂肪をたっぷりと蓄えておかなくてはならないからです。
ときにはキジバトでさえ、追い払ってしまうほどの激しさで、
シメたちは必死になって餌をついばみます。

このように、野鳥たちがフィーダーを占有する優先順位は、
その種類と体躯の大きさで決まるわけですが、
もうひとつ、野鳥の世界では、面白い、
いえいえ、
彼らにとっては非常にシリアスな戦いが展開されます。
それは子孫を残すための戦いです。
毎日見ていると、ほかの種類の鳥とだけではなく、
同じ仲間同士で餌を奪い合っている野鳥たちの姿をよく目にします。
場合によっては、他の種類の鳥よりも、
同じ仲間を厳しく威嚇する方が多いほどです。
カワラヒワはカワラヒワに、シメはシメに……。
ヤマガラもしかり、シジュウカラもしかり、です。
要は、平和な時期はみんなで仲良く、
タイムシェアリングでフィーダーを共有できても、
餌場が混み合ってくると、
仲間の接近は許せなくなるのです。

……といっても、仲良くついばむ相手もいます。
それはきっと異性の仲間だからでしょう。
戦いを挑んでいるのはおそらくオス……。
わたしはそうにらんでいます。
自分のDNAを残してもらうために、
メスは大切にしなくてはならないけれども、
同じオスは邪魔になる……。
自分のDNAを残すためには、
他のオスを押しのけてでも生き抜かねばならない……。
これは、憐れなるかな、
神から仰せつかった、
子孫を残すという使命を果たすための彼らの聖戦なのです。

スタンダードジャズの名曲「As Time Goes By」の歌詞の中に、
It’s still the same old story
A fight for love and glory
A case of do or die
というくだりがあります。
訳すと、
「いつの時代にも存在する物語
愛と栄光のための戦い
生きるか死ぬかのせめぎあい」
になるでしょうか。

なんとなく野鳥の世界にも通じるものがあるなあ、
と、最近、これを歌っていて思うわたしです。

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